摜

摜 摜

踊りの花形(舞台の踊り子)

The Star (Dancer On Stage) 1878年 60.0cm x 44.0cm
1872年~73頃にドガはオペラ座のバレエや踊り子に興味を持ち始めて、バレエの稽古場や楽屋に出入りし始めたと言われている。この作品はパステルを用いることにより舞台照明等の明るさを表現しながらも不思議な曇りを帯びたような空間を醸し出している。
油絵のようにも見えるが、紙にモノタイプで刷った上にパステルで着色されている。モノタイプとは版下に直接絵具等の画料を乗せて描いてから1点刷りとして写し取る版画の技法。
パステルは自然光等の光に弱く、長期間晒されると退色してしまうため、照明を極限まで落とした環境でガラスケースの中に保管された状態で公開されている。
画中に描かれている踊り子を下から照らしあげている人工照明の表現が特徴的なこの作品を、現代においてそのような暗い環境で鑑賞するとまた独特の他の絵画にはない鑑賞経験ができる。
バレエ自体は今日では芸術として大衆に認められたものであるが、当時のフランスにおいては、バレエの踊り子は身分の低い人が生活していくための手段であり、世間的にも侮蔑されるような職業でもあった。バレエの踊り子だけでの収入ではとうてい生活していけるはずもなく、多くの踊り子は裕福な男性にパトロンになってもらうことを望み、その関係性は、娼婦と客というようなものであった。ドガもパトロン的な立場でこのような場に出入りしていたのかもしれない。
一見華やかなバレエの舞台も、実は背景にはそのような事情があったという当時の風情を、舞台上でスポットライトに照らされて艶やかに舞う踊り子と、その対極として背後には薄暗い緞帳の中に半身で佇む男性やその他の顔が見えない踊り子等を描くことによって表現している。